「ウォルドルフ=アストリア・ホテル」の今

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 ヤンセンです。

 そういえば、あのホテル、今どうしてるんだろ?
 ニューヨークのウォルドルフ=アストリア・ホテル。アメリカを代表するホテルといわれてたホテルだけど、気がつけば中国政府の管理下に入っちゃってたホテル。
 ホテル、といってもタダのホテルではないんだな、コレが。世界各国から訪れる国賓クラスのVIPたちの定宿であり住居であり、アメリカの歴代大統領たちのニューヨークにおける定宿であり、国連大使の公邸もあったホテル。
 1893年開業の老舗ホテルで、1931年に場所を移して再開業したのだが、「アメリカ国民に自信と勇気を与えた」とフーバー大統領が開業の挨拶で語り、大恐慌後の暗い不況ムードのなか、毎日 全館に灯りを煌々とつけて人々の心を明るくさせたと語り継がれている。そんな、アメリカ人にとっては精神的シンボルでもある特別なホテルなのに、中国政府の管理下のホテルだなんて…。
 さすがに、まずいよなぁ、これは…と誰でも思うだろうね。そこで、今どうなってるかチェックしてみた。
 公式サイトには「現在大規模な改装・改修工事のため休業しております。営業再開は2〜3年後を予定しております。」と出ている。ふーん、ってことは、まだちゃんと決まってないのか。サイトを見ると、ホテルの写真が見られるギャラリーとかほとんど落とされちゃってて、トップページのみなんだけど、そこにこんな記述が・・・。
【当ホテルの豪華な客室と広々としたスイートをギャラリーでご覧ください。1,415室の客室とスイートには、ゆったりとした大理石のバスルームをはじめ、無料でケーブルチャンネルをお楽しみいただけるフラットテレビ、Wi-Fiを完備。どの部屋も建築当初のアールデコモチーフでまとめられています。】
 これっていつの話?って感じだけど、さらに驚いたことには、【ご宿泊予約は244ドル〜】なーんて書いてあるので、じゃ予約してみよっとクリックしてみると、【現在ご利用できません】となるし。ようするに、誰も手をつけないまんま、放置されちゃってるってこと。いいのかね、天下のヒルトンが、ウォルドルフ=アストリア が。
 そんななか、唯一、元気に日々、朗々と情報発信しているのは、フェイスブックの公式サイト「Waldorf Astoria New York@TheWaldorf」。で、記事の内容はといえば、ウォルドルフ=アストリアのホテルブランドを支える過去の栄光の歴史とエピソードの数々、そして、分譲予定のコンドミニアムの中にそれがいかに反映されているかの PR、さらにはコンドミニアムのセールスチームの紹介とか。うーん、もう徹底してこれしかやらないってとこが、スゴイよね。
なので、コメント欄には「そんなことより、ホテルがどうなるのかについて書いてくれませんか?」とか「ホテルはどうした?」なんて書かれてる。
 ん。だから、ようするに、ホテルのブランド力を最大限に利用して、そういうのにめっちゃ弱〜い世界各地に生息する「カネはたんまり持ってるぜ!」というリッチピープルたちに、高額のコンドミニアムをブランド力が効くうちにガンガン売りつけちゃおう!ということだね。
 肝心のホテルの方はどうかっていうと、昔の名前のままで、ただただそこに存在すればいいってこと。思えば、まあ、「プラザ」の場合もそうだったもんなぁ。今の「プラザ」はもうかつて “プラザ合意” をしたあの「プラザ」ではない、まったく別物だからね。

ブランド力を支えていたのは何なのか?


 もともとヒルトンの創業者コンラッド・ヒルトンが、このホテルがどうしても欲しいと恋焦がれた末に1949年、ようやく手に入れたホテルで、長い間、ヒルトンの旗艦ホテルだったこのホテル。ヒルトンは売却時の契約に「100年間ヒルトンが運営に携わる」という条項があり、再オープン後の運営を受託してる。ってことで、これからもウォルドルフ=アストリアの名に恥じぬよう頑張りまーす!的なこと言ってるけど、あのホテルを支えていたのは「人」
 まず、客層。昨今は往年に比べるとずいぶんレベルが落ちたとはいえ、国賓クラスや米大統領など錚々たるVIPゲストが利用し、そういうゲストが満足するサービスをするために日々切磋琢磨していたスタッフたちがいた。それら両方があいまって、あのホテル独特のアンビアンスを作り出していたのだ。そのいちばん大切なものがなくて、インテリアは昔と同じにしたし、新しいからもっといいでしょ、とただ舞台だけ作っても、役者がいなくては、魂が抜けた箱にすぎない。と、僕は思うけどね。

アメリカの精神的シンボルが中国政府のホテルになるまで

 そもそもは、これが始まりだった。2007年、ヒルトンホテルズが投資ファンド運用会社ブラックストーン・グループに買収された。その結果、「ウォルドルフ=アストリア」も同グループの所有となったのだが、彼らがこのホテルを売りに出してしまったのだ。
 2014年、中国の安邦保険集団が19億5000万ドル(当時のレートで約2,100億円)という、ホテルとしてはアメリカ史上最高額で「ウォルドルフ=アストリア」を買収した。
 これをきっかけに長年のこのホテルを愛した顧客たちが去って行く。2015年には、アメリカ合衆国国務省は防諜の危険を理由にこのホテルを以後いっさい利用しないことを発表し、当時のオバマ大統領も泊まるのをやめた。米国連大使の公邸もあったが、引っ越した。
 ヒルトンの親会社のブラックストーン・グループは、2007年上場時に中国の政府系ファンドである中国投資有限責任公司が30億ドル相当の非議決権株式を取得したため、ブラックストーンが保有するアメリカの軍事・衛星技術関連の情報が中国政府に渡るのではと疑問視されていた会社。火種はすでにあったのだ。
 そうこうするうちに、安邦保険集団が「ウォルドルフ=アストリア ・ホテル」で何をしようとしているかが明らかになる。【ホテルの客室の大部分はコンドミニアムとして分譲するため、2017年春から3年間ほどホテルはクローズする。ホテルとして残すのは300〜500室程度である】、と。ホテル界のみならず、アメリカ社会に衝撃が走ったが、2017年2月、ホテルは結局クローズすることになった。
 ところが、6月に入り、局面が変わる。安邦保険集団の会長ウー・シャオフゥイ氏が中国当局により拘束されたのだ。8月には中国政府が安邦保険集団に同社が保有する海外資産を売却し、その売却資金を中国本土に戻すよう求めた。
 そして、2018年2月23日付で、中国政府ならびに中国保険監督管理委員会(CIRC)が「ウォルドルフ=アストリア・ホテル」のオーナーである安邦保険集団を政府の管理下に置いた。その結果、ホテルも中国政府の管理下に置かれることになった。

競合相手はみんな高級ホテルブランドが売り

 ところで、ただいまマンハッタンでは、有名ホテル併設の超高級コンドミニアムが続々と登場予定。競合相手は多い。
 たとえば、アマンリゾーツはほぼ同時期に、アマン・ニューヨーク客室数83室と併設したコンドミニアムを開業予定。五番街&56丁目というロケーションで、15階〜30階まででわずか22室という豪華版で売値は1,350万ドルから。5フロア占有のペントハウスは18,000万ドルで契約済み。こちらも「アマン」というブランド力を最大限に利用して、世界のリッチピープルを引き寄せようとしている。
 アジア発のウェルネスを売りにしたラグジュアリー・ブランド、シックスセンシズもハドソンヤードのツインタワーに豪華スパを併設した超高級コンドミニアム 236室を開業予定。
 ブラジルのホテル・グループ、ファザーノも五番街で「メンバーズ・オンリー・プライベート・ビルディング」で超高級コンドミニアムを開業予定。賃料は月額1,000万ドル。
 と、まあ、リッチピープルにとってはよりどりみどりのマンハッタンの超高級コンドミニアム事情。
 というわけで、激戦地でコンドミニアムを売ることで頭がいっぱいのオーナーサイドのようだけど、忘れてほしくないなぁ、ホテルの方の「ウォルドルフ=アストリア 」。

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