
ヤンセンです。
<前編>の続きです。
実はハイアットっていう会社、2009年に株式公開するまでいわゆる非公開会社だった。どういうことかというと、ようは勝手に株の売買や譲渡ができない会社。知らないうちに株を買われて乗っ取られたり、経営支配権を奪われたりといったリスクを避けるために、あえて上場せず非公開にしている有名企業もけっこうある。日本でもサントリーなんかがそうだ。ハイアットの場合、オーナーのプリツカー家が銀行も持っているアメリカ有数のリッチ・ファミリーだったから可能だったということもあるけどね。
プリツカー一族について少し触れておくと、ハイアット創業者のジェイ・プリツカー氏の祖父母は、1880年代にロシアや中欧で多発した「ポグロム」と呼ばれる反ユダヤの「焼き討ち」を逃れ、1881年にウクライナ・キエフからアメリカ・シカゴに移住したユダヤ系ウクライナ人移民。祖父はアメリカで弁護士となり、その三人の息子たちも後を継いで兄弟で法律事務所を営んでいたが、ジェイ・プリツカー氏の父が不動産会社を起こし、シカゴを中心に不動産投資で成功した。彼の兄弟たちも事業を起こして成功。そのひとりロバートのコングロマリット企業 マーモン・グループはのちに有名投資家のウォーレン・バフェット氏が買って話題になった。
というわけで、プリツカー家は移民して第三世代目の時代にアメリカ有数の富豪一族となった。
さて、1980年の「パークハイアット」と「グランドハイアット」の2つのブランド登場以降、「ハイアット・リージェンシー」も加えた3ブランド体制でずっとやってきたハイアットだったが、「ハイアットのお家騒動」と世に言われる骨肉の争いが表面化したのは、2003年のことだった。
原因はいろいろ言われているけれど、結局はカネ。会社が非上場会社なので、どんなに株を持っていても配当金としてしかカネは入ってこない。しかも勝手に売り買いすることもできない。『オレは今、カネが欲しいんだ! もし、上場したらオレはスゴイ金額を手にできるのに、なぜやらないんだ!』という不満がプリツカー家 第四世代目たちの間でふつふつと大きくなっていた。
時代がそういう時代でもあった。2003年といえば、春にイラク戦争が終わり、アメリカ経済はいちはやく回復。ヨーロッパでは景気停滞、アジアはSARSの流行で景気が落ち込むのを横目に、アメリカの一人勝ち状態で株価は右上がりだった。誰々の会社が上場して巨額のカネを手にした、なんていう話がアメリカでもそこここであった時代。そう、アメリカのバブルの時代。
ホテル界では、世紀の変わり目の頃からファッション・ブランドのホテルビジネス参入がはじまっていたが、この頃はなだれを打つように続々とブランド名をホテル名にしたホテルが世界各地に登場していた。ヴェルサーチ、ブルガリ、アルマーニ、そして、LVMH。同時にかつてスターウッドが「かけ算」の論理をホテル界に持ちこんだと言われたファンドがホテル界を席巻し、 “デリバティブ的発想” によりホテル界の構造的な組み替えが行われようとしていた時だった。
つまり、カネと頭の使いようで、手持ちの資金を何倍どころか何百倍にも何千倍にも増やすことが可能という機運に満ちていた。そんな時代、なまじカネのなる木を持っておとなしくしていられる人は珍しいだろう。人間だもの・・・。
なんせカネを巡る争いなもんで、みんなガチで挑み、すったもんだがありましたの結果、ハイアット家の11人(離婚された後妻の子も含めて13人の説もある)の第四世代の相続者たちは一人当たり約13億5千万ドル(当時のレートで約1,330億円)ずつ手に入れた。
そして、2009年、創業以来、非公開会社だったハイアットは上場して公開企業となった。
ハイアットのブランドがわかりにくくなったのは、ここからだった。
ハイアットのホテルブランド、迷走の歴史
以下、ハイアットのホテルブランドの歴史をいちおう書いておくと、
2006年 「ハイアット・プレイス」登場。長期滞在ホテルブランド、サマーフィールド スイー ツを買収し、「ハイアット サマーフィールド スイーツ」にリブランド。
2007年 ロンドンに「ANdAZ」登場。
2012年 ハイアット・サマーフィールド・スイーツが「ハイアット・ハウス」にリブランド。
2013年 オール・インクルッシブ・リゾート「ハイアット・ジーヴァ&ハイアット・ジラーラ」登場。
2015年 ライフスタイルホテルブランド「ハイアット・セントリック」登場。
2016年 「ジ・アンバウンド・コレクション・バイ・ハイアット」登場。
2018年 「アリラ」と「トンプソン・ホテルズ」を買収した結果、新しいホテルブランドとして「アリラ」「デスティネーション・バイ・ハイアット」「jdv バイ・ハイアット」「トンプソン・ホテルズ」が加わる。
2019年 パーソナル・コネクションをインスパイアするライフスタイル・ブランドとして「キャプション・バイ・ハイアット」と「UrCove」が加わる。「UrCove」は、BTG Homeinns Hotels Group とのジョイント・ベンチャーで、中国人のフリクエント・トラベラーの増加に伴い拡大しつつある中国の高級ホテルマーケット向けのブランド。
現在、ハイアット傘下のホテルブランドの数は18あり、それを以下の3つのグループに仕分けしている。
・「タイムレス・ポートフォリオ」… ハイアットのクラシック・ブランド
・「バウンドレス・ポートフォリオ」… ライフスタイル・ブランド
・「インデペンデント・コレクションズ」… ソフトブランディッドな独立系
・・・なんだそうだ、ハイアット側が言うには、ね。
しかし、ユーザー側から見ると、どういう基準で分けたのかぜんぜんよくわからん、というのが正直なところ。以前ならば、パッと見て、あ、ここはハイアット系だなとわかったんだけど、今では言われないとわからないホテルブランドも多い。各ホテルブランド間での棲み分けや、ブランドの個性というものも、よくわからなくなってきているし。
これだとそもそもブランドの意味がない、っていうのが今の現状だ、と僕は思うんだけどね。
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