アマンリゾーツ闘いの歴史<2>

ヤン・センです。
そして、やっぱり、第二幕がはじまった。
(以下、2014年当時のお話)

ヴァロージャ…。 
「ヴァロージャって、あの不動産屋のウラジミール・ドローニン?」
どうやらボクのロシア語の発音が良かったらしく、すぐに会話はロシア語に切り替えられてしまったので、しばらくロシア語の会話となった。
ボクの場合、世界各地を放浪しているうちに国籍不詳の風体になってしまったようで、その人が思いたい国の人に見えるようだ。そんなわけで、今日はロシア人の日。
なんでも、アマナット君が結局のところ買収資金の残金をひとりでは用意することができず、ロシア人の不動産ディベロッパーのヴァロージャ(ウラジミールの愛称)と組むことになったんだそうだ。
「奴が黙っているとは思えないよ」
ま、確かにおとなしくしていそうな男ではない。
この新たに加わったヴァロージャという登場人物だけれど、いわゆるパパラッチたちに盗撮される対象であることをステータスや生きがいにする、自称セレブリティー「業界」ではよく知られたひとなんだよね。
ここ数年来は、スーパーモデルのナオミ・キャンベルを連れて、イビザだのなんなのと、世界各地の高級リゾートにお出ましだった。

(c)Yangsen

風貌はというと、「あれ? プーチン、背が伸びちゃったの?」というくらいプーチンにもよく似ているが、背が高くスタイルもいい。年は50過ぎだけど、厚い胸板の肉体美がいたくご自慢で、ついつい人前で脱がずにはいられないところもプーチンと一緒。パパラッチされるときは上半身裸姿が多いようだが、野球帽にTシャツ、ハーフパンツ姿がリゾートでのお得意スタイル。
まあ、こうした写真を見ると、「オレってこういう高級リゾートにも場慣れしてんだよね、ね、ね、そう見えるだろ? だろ? だろ?」そんな気持ちがひしひしと感じられる。
この「アマン劇場」の新しい登場人物のヴァロージャ、ゴシップ誌に取り上げられるときの枕詞は、いつも決まって「ロシアの大富豪」。
でもさ、いったいいくら持っていたら「富豪」認定されて、いくら以上だったら「大富豪」になるんだろう? 
そこで、ボクも自分のリゾート・モードに切りかえて部屋のプライベートプールのデッキチェアからサンセットを眺めつつ、ルームサービスで届けてもらったマルガリータをちびりちびりと飲みながら、毎年、世界の長者番付を発表している「フォーブス」の2013年度版を1000位まで追ってみることにした。
なんで、1000位までかって? リストをずっと追って見てもヴァロージャが出てこなくて、まだかまだかと思って見ているうちに最後まで見ちゃったから。あーあ、疲れたよ。
結論は、ヴァロージャは、少なくともフォーブスの調査では、世界で1000位以内に入る富豪ではない。じゃあ、ロシア人はランク入りしていないのかというと、そうではなく、ちゃんといる。ロシア人としての最高位は44位で、1000位以内には53人ランク入りしている。つまり、ヴァロージャは、「大富豪」といっても、ロシアでは54位以下程度の富豪さ加減の “大富豪” ということになるね。
余談だけど、フォーシーズンズの共同オーナーのひとりであるビル・ゲイツは2位で、もうひとりのオーナーのサウジアラビアのアル・ワリード王子は31位。大富豪って言って許されるのは、このレベルじゃないのかね?
ヴァロージャを「大富豪」だと言っているゴシップ誌たちのその根拠は何なのか? 気になって調べてみた。
トリサラから「アマンプリ」まで遠征して…ってほどの距離でもないけれど、プライベート・ビーチを見下ろすオープンテラスのテーブルでトムヤンクンだのタイ料理のランチを食べたくてね…。料理が出てくるまでの間、スプマンテを飲みながら、ネットサーフィンして探してみた。
その結果、イメージとしてのヴァロージャ像を形成する「舞台」や「小道具」が明らかになったね。
まず、いかにもカネがかかりそうなスーパーモデルのナオミという「小道具」。
そして、「小道具」を連れて訪れる「舞台」は常に世界各地の高級リゾート。
言い換えると、これは「借景」だね。奴もなかなか頭がいいよ。自分のカネはかけず、他人が投資して作った高級な「舞台」をちゃっかり使って、これまた他人のカネで自分を宣伝してもらってるんだからね。
ヴァロージャが世界各地に所有する豪邸とされている、ロンドンのワン・ハイド・パーク・アパートメントをはじめとする高級住宅地の物件は、彼の商売柄、投資している資産にすぎないし、これまたいい宣伝だ。
ロシアという、欧州の主要国からすれば辺境の田舎者にすぎない国からぽっと出の無名の不動産屋が、世界に勝負をかけるにあたって、最短でてっぺんまで行くにはどうしたらいいか、考えた結果だろう。こいつはなかなか頭がいいよ。
だから、ヴァロージャにとってはゴシップのネタになる派手なおつきあいもお仕事のひとつってことだ。
モスクワが本社の彼の会社、キャピタル・グループのサイトを見てみたが、実に地味で派手さのまったくない手堅い作り。1991年に設立以来、モスクワを中心に、プロジェクト実績を積み上げてきている。
意外だったのは、あれだけ出たがり屋に見えるヴァロージャの名前はおろか、写真やプロフィールが一切出ていないことだ。
その代わりにマネージング・チームのプロフィール紹介があるんだが、10名中、女7名:男3名の構成。いちおう全員の写真をじっくり見てみたが…誰が見ても美女もいれば、そうでない方も。
ただ、普通だとこの手の会社でいちばん目立つタイプを人事配置するだろうPR担当者が、いわゆるぽっちゃりさん系の気のよさそうなおばちゃん。ヴァロージャを解明する鍵は実はこの辺にあったりして。
プーケットの地元産の小ぶりなロブスターの尻尾をかじりながら、ヴァロージャとナオミ(往年に比べるとさすがに年月を感じさせるけど)とのツーショットの画像を見てたら、それを後ろからのぞきこんだ美女(かどうかは、声でわかるんだな、これが)が、「彼はね、ナオミとはもう別れたわ。新しい恋人は若い中国人モデルのルオ・ズーリンよ」。
そろそろ償却すませて、次の投資物件に乗り換えたか。
「あ、そう。ところでなんか飲む?」
ボクもどうやら美女のトモダチをみつけたようだ…。
そして、5月(2014年当時)のはじめのある日のこと。ギリシャのミコノス島にある行きつけのバーを久しぶりに訪れ、スツールに腰をおろし、ビールを飲みながらつまみがわりにネットのニュース記事を見ていたら、5月2日付けで「アマングループがリーダーシップの変更をアナウンスした」という見出しを発見。
記事によると、「アマンリゾーツの創業者であるエイドリアン・ゼッカは、会長ならびにCEOの座から引退することを決めた」。
念のため、調べてみると、ロイターのサイトでアマンリゾーツが正式に発表したプレスリリースがあり、同様の内容を伝えている。
つい3ヶ月前にアマンリゾーツを買い戻した人が、そう簡単に「引退を決心」なんかするかね? と思って読み進めると、ゼッカに替わってヴァロージャがCEOに就任した、とある。
ついに出てきたね、ヴァロージャ。
第二幕のはじまり、はじまりぃ〜。
<その3>に続きます。

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