アマンリゾーツ 闘いの歴史<3>

ヤン・センです。
さて、第三幕。(以下、2014年当時のお話)

ゼッカが去り、ヴァロージャ新CEOのもと、アマンリゾーツがどう変わるか。
巷では…って、ボクの場合、リゾートのプールサイドかバーがほとんどだけど、みんなのいい酒の肴になっている。ホテルって、オーナーが変わると変わっちゃうものだからね。
アマンリゾーツもヴァロージャ流のアマンリゾーツになるんだろうねって言ったら、「いやいや、ずいぶん前からもう昔のアマンじゃあないよ。昔の顧客は他に移っちゃってるよ、僕も含めてね」とはイギリス人のトモダチ。確かにね、それはボクも感じることだ。客層がもうすっかり変わった。


今回のアマンリゾーツのお家騒動に関しては、「ニューズウィーク」でもBruce Palling 記者が「トラブル・イン・パラダイス」というタイトルで7月27日付けの記事を書いているけれど、やはり客層の変化について触れている。
「いずれにせよ、アマンジャンキーの時代は既に終わっている」と記し、「アマンが出来て25年の間に、人々はより経験豊富な旅行者になり… 新しいアマンは今ではむしろ退屈なインターナショナル・リッチにアピールするものである」というトラベル・エキスパートの発言を伝えている。その新しいアマンの顧客とは、最近増えているマレーシア人富豪や上海やリオデジャネイロからのビジネスマンとのこと。
この客層っていうのはさ、ある意味、ホテルにとってのすべてだからね。


そして、7月。
ニューヨークのソーホーのホテル「ザ・マーサー」で朝食を食べながら、持参のiPad でニュースをチェックしていたら、CNBCの7月17日付けで、こんな記事が出ていた。

『アマンリゾーツのコントロールに関し、オマール・アマナットがドローニンに勝訴』

アマナット君 (c)Yangsen
ヴァロージャ、ことドローニン (c)Yangsen

あれあれ、いつのまにか共同パートナーのアマナット君とヴァロージャの訴訟争いになっていたようだね。
関連ニュースを検索していくうちに、7月17日付けのウォールストリートジャーナルに、こんな記事を発見。

『ロシア人の不動産投資家ドローニンがアマンリゾーツのパートナーを訴えた』

ああ、ややこしい。
ようするに、まず、最初に訴えたのは、ゼッカとアマナット君。5月にヴァロージャによってアマンリゾーツがアマンリゾーツの公式声明として出したゼッカの引退とドローニンの新CEO就任等のアナウンスメントには何ら法的根拠がなく、無効である、とする訴えをロンドンで起こした。
これに対してロンドンの裁判所の判決は、ゼッカ&サマナット組の勝ち!

 
そうしたら今度は、怒ったヴァロージャがサマナット君に対して、ニューヨークで訴えを起こした。
ウォールストリートジャーナルの7月17日付けの記事によると、ヴァロージャが「マジョリティ・シェアホルダー」つまり、株の過半数を握っているらしい。ああ、それで、5月にあんな声明を出せたってわけだ。
ひと筋縄ではいかないヴァロージャは、今度はロンドンからニューヨークに闘いの場を移し、ニューヨーク州地方裁判所にこんな訴えを起こした。
記事によると、ヴァロージャの訴状の内容は、「アマンリゾーツの取得に関した取引にドローニンを引き込むため、アマナットは1億ドル以上の現金を実際には持っていなかったのにもかかわらず、持っていると偽り、虚偽の書類を提出した」。

ようするに、ヴァロージャが言いたいのは、カネを出したのはオレなんだぜ、ベイビー、っていうところだろう。

判決は9月に出るとのことだが、ニューヨーク州の場合は三審制なので、今回の裁判は第一審。
まだまだ、「アマン劇場」は続きそうだね。
第四幕の開演が楽しみだね。
See you ! ダ スヴィダーニァ!


<その4>に続きます。

アマンリゾーツ闘いの歴史<2>

ヤン・センです。
そして、やっぱり、第二幕がはじまった。
(以下、2014年当時のお話)

ヴァロージャ…。 
「ヴァロージャって、あの不動産屋のウラジミール・ドローニン?」
どうやらボクのロシア語の発音が良かったらしく、すぐに会話はロシア語に切り替えられてしまったので、しばらくロシア語の会話となった。
ボクの場合、世界各地を放浪しているうちに国籍不詳の風体になってしまったようで、その人が思いたい国の人に見えるようだ。そんなわけで、今日はロシア人の日。
なんでも、アマナット君が結局のところ買収資金の残金をひとりでは用意することができず、ロシア人の不動産ディベロッパーのヴァロージャ(ウラジミールの愛称)と組むことになったんだそうだ。
「奴が黙っているとは思えないよ」
ま、確かにおとなしくしていそうな男ではない。
この新たに加わったヴァロージャという登場人物だけれど、いわゆるパパラッチたちに盗撮される対象であることをステータスや生きがいにする、自称セレブリティー「業界」ではよく知られたひとなんだよね。
ここ数年来は、スーパーモデルのナオミ・キャンベルを連れて、イビザだのなんなのと、世界各地の高級リゾートにお出ましだった。

(c)Yangsen

風貌はというと、「あれ? プーチン、背が伸びちゃったの?」というくらいプーチンにもよく似ているが、背が高くスタイルもいい。年は50過ぎだけど、厚い胸板の肉体美がいたくご自慢で、ついつい人前で脱がずにはいられないところもプーチンと一緒。パパラッチされるときは上半身裸姿が多いようだが、野球帽にTシャツ、ハーフパンツ姿がリゾートでのお得意スタイル。
まあ、こうした写真を見ると、「オレってこういう高級リゾートにも場慣れしてんだよね、ね、ね、そう見えるだろ? だろ? だろ?」そんな気持ちがひしひしと感じられる。
この「アマン劇場」の新しい登場人物のヴァロージャ、ゴシップ誌に取り上げられるときの枕詞は、いつも決まって「ロシアの大富豪」。
でもさ、いったいいくら持っていたら「富豪」認定されて、いくら以上だったら「大富豪」になるんだろう? 
そこで、ボクも自分のリゾート・モードに切りかえて部屋のプライベートプールのデッキチェアからサンセットを眺めつつ、ルームサービスで届けてもらったマルガリータをちびりちびりと飲みながら、毎年、世界の長者番付を発表している「フォーブス」の2013年度版を1000位まで追ってみることにした。
なんで、1000位までかって? リストをずっと追って見てもヴァロージャが出てこなくて、まだかまだかと思って見ているうちに最後まで見ちゃったから。あーあ、疲れたよ。
結論は、ヴァロージャは、少なくともフォーブスの調査では、世界で1000位以内に入る富豪ではない。じゃあ、ロシア人はランク入りしていないのかというと、そうではなく、ちゃんといる。ロシア人としての最高位は44位で、1000位以内には53人ランク入りしている。つまり、ヴァロージャは、「大富豪」といっても、ロシアでは54位以下程度の富豪さ加減の “大富豪” ということになるね。
余談だけど、フォーシーズンズの共同オーナーのひとりであるビル・ゲイツは2位で、もうひとりのオーナーのサウジアラビアのアル・ワリード王子は31位。大富豪って言って許されるのは、このレベルじゃないのかね?
ヴァロージャを「大富豪」だと言っているゴシップ誌たちのその根拠は何なのか? 気になって調べてみた。
トリサラから「アマンプリ」まで遠征して…ってほどの距離でもないけれど、プライベート・ビーチを見下ろすオープンテラスのテーブルでトムヤンクンだのタイ料理のランチを食べたくてね…。料理が出てくるまでの間、スプマンテを飲みながら、ネットサーフィンして探してみた。
その結果、イメージとしてのヴァロージャ像を形成する「舞台」や「小道具」が明らかになったね。
まず、いかにもカネがかかりそうなスーパーモデルのナオミという「小道具」。
そして、「小道具」を連れて訪れる「舞台」は常に世界各地の高級リゾート。
言い換えると、これは「借景」だね。奴もなかなか頭がいいよ。自分のカネはかけず、他人が投資して作った高級な「舞台」をちゃっかり使って、これまた他人のカネで自分を宣伝してもらってるんだからね。
ヴァロージャが世界各地に所有する豪邸とされている、ロンドンのワン・ハイド・パーク・アパートメントをはじめとする高級住宅地の物件は、彼の商売柄、投資している資産にすぎないし、これまたいい宣伝だ。
ロシアという、欧州の主要国からすれば辺境の田舎者にすぎない国からぽっと出の無名の不動産屋が、世界に勝負をかけるにあたって、最短でてっぺんまで行くにはどうしたらいいか、考えた結果だろう。こいつはなかなか頭がいいよ。
だから、ヴァロージャにとってはゴシップのネタになる派手なおつきあいもお仕事のひとつってことだ。
モスクワが本社の彼の会社、キャピタル・グループのサイトを見てみたが、実に地味で派手さのまったくない手堅い作り。1991年に設立以来、モスクワを中心に、プロジェクト実績を積み上げてきている。
意外だったのは、あれだけ出たがり屋に見えるヴァロージャの名前はおろか、写真やプロフィールが一切出ていないことだ。
その代わりにマネージング・チームのプロフィール紹介があるんだが、10名中、女7名:男3名の構成。いちおう全員の写真をじっくり見てみたが…誰が見ても美女もいれば、そうでない方も。
ただ、普通だとこの手の会社でいちばん目立つタイプを人事配置するだろうPR担当者が、いわゆるぽっちゃりさん系の気のよさそうなおばちゃん。ヴァロージャを解明する鍵は実はこの辺にあったりして。
プーケットの地元産の小ぶりなロブスターの尻尾をかじりながら、ヴァロージャとナオミ(往年に比べるとさすがに年月を感じさせるけど)とのツーショットの画像を見てたら、それを後ろからのぞきこんだ美女(かどうかは、声でわかるんだな、これが)が、「彼はね、ナオミとはもう別れたわ。新しい恋人は若い中国人モデルのルオ・ズーリンよ」。
そろそろ償却すませて、次の投資物件に乗り換えたか。
「あ、そう。ところでなんか飲む?」
ボクもどうやら美女のトモダチをみつけたようだ…。
そして、5月(2014年当時)のはじめのある日のこと。ギリシャのミコノス島にある行きつけのバーを久しぶりに訪れ、スツールに腰をおろし、ビールを飲みながらつまみがわりにネットのニュース記事を見ていたら、5月2日付けで「アマングループがリーダーシップの変更をアナウンスした」という見出しを発見。
記事によると、「アマンリゾーツの創業者であるエイドリアン・ゼッカは、会長ならびにCEOの座から引退することを決めた」。
念のため、調べてみると、ロイターのサイトでアマンリゾーツが正式に発表したプレスリリースがあり、同様の内容を伝えている。
つい3ヶ月前にアマンリゾーツを買い戻した人が、そう簡単に「引退を決心」なんかするかね? と思って読み進めると、ゼッカに替わってヴァロージャがCEOに就任した、とある。
ついに出てきたね、ヴァロージャ。
第二幕のはじまり、はじまりぃ〜。
<その3>に続きます。

アマンリゾーツ 闘いの歴史<1>

はじめまして、ヤン・センです。
世の中にはアマンジャンキーという人たちがいて、ボクもアマンリゾーツのことはよく聞かれる。そこでごあいさつがわりに、アマンの創業者エイドリアン・ゼッカの闘いの歴史について書いてみる。

2014年の2月のことだった(以下、2014年当時のお話)。
ロサンジェルスから乗った飛行機で隣席になったインド人のビジネスマンとお互いに読んでた新聞を交換し、「ジ・エコノミック・タイムス」という、インド版の日経新聞のような新聞を開いたところ、2月10日付けの記事で、こんな見出しが目に飛び込んできたんだ。


『DLFがアマンリゾーツを売却した』

あれ、これからアマンリゾーツに泊まるのに…と思って、記事を読むと、どうやら、アマンリゾーツのファウンダーであるエイドリアン・ゼッカが、オマール・S・アマナットなる人物と組んで、インドの不動産ディベロッパーのDLFから株を買い戻したということなのらしい。
なんか、前にもゼッカって、同じようなことやってなかったっけ。一度アマンを追われて、マーハ・リゾーツって新しいホテルブランドを作って再起をはかるって言ってたけど、株を買い戻してアマンに劇的に復活!とかなんとかいう話。

(c)Yangsen


そういえば、それまで一切、自分の写真を公表しなかったゼッカが、あの時はじめて顔写真を公開したから、よっぽどうれしかったんだろうけど、あの写真、プロから見るとちょっといまいちだったね。それまでのベールに包まれたっていう神秘的なゼッカのイメージをあっさり壊しちゃったと、ボクは思う。あれれ、こんなオジサンだったのかってさ。ああ、ボクにひとこと言ってくれれば、もっと良い写真撮ったのに…。
ま、ともかく、記事を読んでみた。

(c)Yangsen

ゼッカと組んだアマナットって人物、どっかで聞いたことがある名前だと思ってたら、やっぱりちょっとヤバそうだね。
若くして、アメリカで電子証券取引システムの会社を興し、会社を作っては価値を上げて売却するというのを繰り返して資産を作り、ハリウッドの映画界にも進出して映画制作もやってるという人物らしい。
さっそくググってみると、個人のサイトも持っていて、トップ画面で次々とスライドショーで流れる彼の写真。けっこうナルシストっぽいね、こりゃ。見る限り、中近東かインドあたりの容貌。それでもって、かなり若いね。せいぜい30代から40前後ってとこだろかね。ゼッカはたしか、もうとっくに80越えの快老人だと思うけど。
ふーん、ゼッカは、これまでも次々と相棒を変えてきたけど、今度の相棒はヤングマンかねぇ…なんて思いながら、再び記事に戻ると、売却価格は3億6千万ドル。
ただ、記事によると、そのうち7千万ドルは既に支払われたけれど、残りの2億9千万ドルをアマナット君はまだ用意できてないようだ。さぁて、どうするかね、アマナット君。
さらに記事によると、ゼッカが07年にDLFにアマンリゾーツを売却した際の価格は約1億5千万ドルの負債も含めて4億ドルだったので、差し引き4千万ドルの儲けってなるところだけど、DLFがニューデリーに2009年にオープンしたアマン・ニューデリー(現『ロディ』)は含まれないそうな。
記事にじっと見入っていたら、隣のインド人ビジネスマン、「DLFはね、この会社を売ったおかげで負債が減ったのがマーケットで好感され、株が上がったんだよ」とさ。
インド人にはインド人の、アマンジャンキーにはアマンジャンキーの事情ってものがあるんだよね。
あ、ボクもね、アマンリゾーツは初期の頃から好きでよく泊まってますよ。スタッフにトモダチも多いから、これまでもいろいろ噂も聞いてますけどね。
次にどこにアマンが出来るのかっていう話がアマンジャンキーの人たちはとりわけ大好きだって言うんで、聞かなくてもよく話してくれますけど、昔はね、現場のスタッフレベルにはそんな話が漏れては来なかったんだけど、最近はすぐに話がまわるようになったね。
あと、有名人の誰々が泊まりに来たとかも、すぐ話してくれちゃう。なんというかね、ちょっとみんな口が軽すぎるって感じがするよね、この頃のアマンはさ。昔はもっと、ゲストとの間に緊張感があって、あれがアマンの魅力のひとつだったんだけどね。
口が軽いっていえば、日本人の銀行マンたちも口が軽いらしいね。京都アマンの情報が流出したのも銀行関係筋からっていうし。そういう話はすぐに知れ渡るから、バリ島の「アマヌサ」のプールサイドで寝転んでたときに、隣のデッキチェアにいたカリフォルニアから来た国際金融のビジネスやってるっていう大学出たての若いゲイが、「ジャパニーズ・バンカーは気をつけなくちゃね」って言ってたよ。
ああ、話が脇道にそれちゃったけれど、あの後ひさしぶりに訪れたプーケット島の「トリサラ」、元アマンプリのGMだったアンソニーのホテルね、今度はあそこで知り合った北欧系の投資家がおもしろい話を教えてくれたんだよね。
「あの話、ヴァロージャが一枚からんでいるから、きっと第二幕があるはずだよ」って。
<その2>に続きます。